和歌山地方裁判所 平成9年(ワ)26号 判決
主文
一 被告は、原告に対し、一七〇〇万円及びこれに対する平成九年一月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用のうち、参加により生じた分は補助参加人らの負担とし、その余を一〇分し、その三を原告の、その余を被告の各負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告は、原告に対し、二五〇〇万円及びこれに対する平成八年四月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 被告
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二事案の概要
一 事案の要旨
原告は、原告所有建物に発生した火災はプロパンガスの漏れが原因であったとして、プロパンガスの装置を設置し、供給している被告に対し、債務不履行責任、土地工作物責任、製造物責任又は使用者責任のいずれか(択一的)による損害賠償請求権に基づき、損害合計一億〇一三八万五〇〇〇円のうち二五〇〇万円及びこれに対する右火災が発生した日である平成八年四月二〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
これに対して、被告は、原告主張の責任を否認するなどして争っている。
二 前提事実
以下の事実は、当事者間に争いがないか、証拠(甲六、七、乙一、証人D及びE)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実である。
1 被告は、平成一一年一〇月一日、a農業協同組合、b農業協同組合、Y1農業協同組合、c農業協同組合、d農業協同組合、e農業協同組合が合併して設立されたものであり、これによりY1農業協同組合の権利義務一切を承継した(以下には合併前のY1農業協同組合をも単に「被告」という。)。
2 被告は、原告との間で、原告所有の別紙物件目録記載一、二の建物(以下、同目録記載一の建物を「本件本宅」、同目録記載二の建物を「本件風呂便所」とそれぞれいい、併せていうときは単に「本件建物」という。)にプロパンガスを供給する契約を締結し、従前からプロパンガスを供給していた。被告が供給するプロパンガスは補助参加人Z1社が製造し、被告所有のガスボンベに充てんしたものであった。
3 被告は、右プロパンガス供給契約に基づき、f株式会社に後記本件工事を請け負わせ、同会社はこれをg株式会社に下請けさせ、同会社の従業員であるD(以下「D」という。)及びE(以下「E」という。)は、平成八年四月一五日、本件本宅の台所にガス漏れ警報器(○○)を設置し、同時にガスメーターを交換し(新たに設置されたのは△△である。)、ガス漏れ警報器とガスメーターを結線した(以下「本件工事」という。)。被告が設置したガスメーター及びガス漏れ警報器は補助参加人Z2社が製造し、被告が所有していたものである。
4 平成八年四月二〇日午後六時二〇分ころ、本件本宅に火災が起こり、本件本宅が全焼し、隣接する本件風呂便所の一部(約二平方メートル)も延焼により焼損し、修理不能となるとともに、みかん畑のみかんの木が焼損した(以下「本件火災」という。)。
5 本件火災当時、本件本宅では、二〇キロのガスボンベを二本使用しており、そのガスボンベは、ガスの元栓があった台所南東部の東側の外壁に沿って南寄りに設置されていた。
6 原告は、被告の建物更生共済に加入していたため、本件火災によって、被告から共済金として二〇〇〇万円を受領した。
三 争点及びこれに関する当事者の主張
1 本件火災の原因はプロパンガスのガス漏れによる引火か否か。
(原告の主張)
本件火災は、プロパンガスのガス漏れが原因で発生した。すなわち、出火の状況が、原告の妻F(以下「F」という。)がガスコンロに火を付け、三分ほど経ってから、元栓の口付近の右側から火が付くと、あっという間に床面に火が広がり、五、六分後に台所の外のガスボンベが爆発したものであること、出火の原因として、電気的な原因の可能性は薄く、石油ストーブ自体からの発火や放火の可能性もなく、Fのガス器具操作上の過誤もないことからすれば、本件火災の原因は、ガス鋼管の室内引込口近くの元栓付近と、室外のガスボンベに接続するガスメーター付近の二か所からガス漏れがあり、この漏れたガスにFが火を付けたため引火したものである。
(被告の主張)
ガス漏れなどの事故は、和歌山県農業協同組合連合会のガスセンターにおいて、集中管理システムを取っているところ、事故発生の場合はガスメーター部分でガスを遮断し、電話回線を利用してガスセンターに信号が届く仕組みになっている。
D及びEは、平成八年四月一五日にガス漏れ警報器取付けなどの本件工事をした際、保安点検を実施し、異常がないことを確認したし、ガス漏れ警報器の作動確認及びガス漏れ警報器とガスメーターの連動遮断確認を行い、いずれも正常に作動したことを確認した。
しかも、平成八年四月一五日から本件火災発生まで、右事故の信号は届いていない上、同月一九日午前一〇時一分に本件本宅のセキュリティシステムの正常を確認したし、その際のガス検針値は〇・八五一であり、それまでの約四日間のガス使用量は一般家庭としてはやや少なめの〇・七五一立方メートルであった。
さらに、有田消防組合は、Fの詳細な供述を聞き、ガス漏れの可能性を詳細に調査検討したにもかかわらず、出火原因は不明との結論を導いている。
したがって、本件本宅にガス漏れはなく、本件火災の原因は原告が主張するガス漏れではない。
(原告の反論)
有田消防組合は、本件建物のガスメーターやガス漏れ警報器が正常に作動していたか不明としている。
2 本件火災につき被告に原告主張の以下の責任(択一的)があるか。
(一) 債務不履行責任
(原告の主張)
被告は、原・被告間のプロパンガス供給契約に基づき、ガスの引火、爆発を未然に防止すべき義務、一般人が通常の用法に従って使用する限りガス漏れを発生させないようにする高度な注意義務、消費者の設備が通産省の定める技術上の基準に適合しているか否か調査する義務、右調査の結果不良個所があれば、消費者に不良個所及びそれを改善しないと起こりうる結果を通知する義務、ガスメーターを取り替え、ガス漏れ警報器を取り付ける工事を行うときは、右工事によってガス漏れが発生しないように工事をすべき高度の注意義務を負っている。
しかし、被告は、ガス漏れ警報器の取付けなどの本件工事の際、ガス引火を現認しているのに、そのまま放置し、ガスの設置、配管、供給に当たり定期的に点検すべき義務を怠り、また、工事不良等によりガス漏れを発生させ、火災を引き起こしたのであるから、右ガス漏れが発生しないように工事をすべき注意義務ないしガス漏れを感知するようガス漏れ警報器の設置場所を選択し取付けをすべき注意義務を怠ったものである。
(被告の主張)
原告の右主張は争う。
被告が行ったガス漏れ警報器取付けなどの本件工事は、液化石油ガス設備士の有資格者を含む二名により戸別LPGメーター交換(取付け)標準工程に従って行われており、右工事に注意義務違反はない。
なお、右工事中に生じた引火は、着火テストの際のものと燃焼圧テストの際に簡易テスターの予備コックが半開きになっていたためにガスが漏れて引火したものであり、ガス漏れ事故に関連するものではない。
(二) 土地工作物責任
(原告の主張)
プロパンガス、ガスボンベ、配管、ガスメーター及びガス漏れ警報器は、全体としてガス供給設備として土地の工作物となり、ガスボンベ、配管、ガスメーター及びガス漏れ警報器の所有者である被告は、その設置又は保存の瑕疵につき所有者として工作物責任を負うところ、右ガス供給設備にはガス漏れを発生させたという瑕疵があった。
(被告の主張)
プロパンガスなどのガス供給設備は土地の工作物ではないし、前記1の被告の主張記載のとおりガス漏れはなかったのであるから、右ガス供給設備に設置又は保存の瑕疵はなかった。
なお、配管は原告の所有である。
(三) 製造物責任
(1) ガス供給設備の製造物責任
① 被告はガス供給設備について製造業者に当たるか。
(原告の主張)
被告は、既設のガス供給設備にガスボンベ、ガスメーター及びガス漏れ警報器を取り付け、その接続及び配線をしているのであり、完成した設備は一体として製造物となり、被告が製造業者となる。
また、プロパンガスの製造及びガスボンベへの充てんを補助参加人Z1社が行ったとしても、右プロパンガスは農協のブランドで引き渡されているものであり、被告は誤認表示製造業者に当たるし、ガス供給に関する農協の販売形態、消費者の認識からすると被告は実質的表示製造業者に当たる。
(被告の主張)
被告がガス供給設備の誤認表示製造業者ないし実質的製造業者に該当する余地はない。
被告は、本件建物の既設の配管設備をそのまま利用し、配管途中のガスメーター及びその接続のための継ぎ手を交換したのみで、その他の既設の配管設備に手を加えておらず、ガス供給設備を製造又は加工したものではなく、製造業者に該当しない。
なお、ガス漏れ警報器の設置や、ガスメーターとガス漏れ警報器ないし集中監視システムとの結線は、いずれもガス配管設備とは無関係の部分である。
② ガス供給設備に欠陥があったか。
(原告の主張)
原告ら家族は、ガス漏れ警報器取付けなどの工事後、ガスの元栓を開閉したのみでその他のガス供給設備には一切手を触れていない。
したがって、ガス漏れは、ガスメーター交換等の本件工事の際にガス漏れが発生するような工事がなされていたことによるものであり、また、ガス漏れが発生した後にもガス供給を遮断すべきガス漏れ警報器が作動せず、ガス漏れによる出火及びその後のガスボンベの爆発を引き起こしたのであるから、ガス供給設備に製造上の欠陥があったものである。
(被告の主張)
前記1の被告の主張のとおり、保安点検を実施して異常がないことが確認されており、ガス漏れはなかったのであるから、ガス配管設備に製造上の欠陥はなかった。
(2) ガス漏れ警報器の製造物責任
① 被告はガス漏れ警報器について製造業者に当たるか。
(原告の主張)
ガス漏れ警報器は、農協が一括して購入し、全農、経済連、各単位農協のルートで納品され、農協のブランドで販売されているものであり、OEMと認められるのであるから、被告は誤認表示製造業者というべきである。
(被告の主張)
被告は、ガス漏れ警報器にいかなる氏名表示もしておらず、誤認表示製造業者に該当する余地はない。
② ガス漏れ警報器に欠陥があったか。
(原告の主張)
ガス漏れ警報器は、ガス漏れによる火災が発生したにもかかわらず、ガスを検知せず作動しなかったものであり、欠陥があった。
(被告の主張)
前記1の被告の主張のとおり、本件工事後にガス漏れ警報器の作動確認がなされ、その際ガス漏れ警報器は正常に作動していたもので、ガス漏れはなかったのであるから、ガス漏れ警報器に欠陥はなかった。
(補助参加人Z2社の主張)
ガス漏れ警報器は、高圧ガス保安協会で定めた基準に基づき、同協会の検定に合格しなければ製品として出荷できないものであり、特段の事情がない限り正常に作動するものであって、本件においても正常に作動していた。
(四) 使用者責任
(原告の主張)
被告担当者は、ガスメーターを取り替え、ガス漏れ警報器を取り付ける工事を行うときは、右工事によってガス漏れが発生しないように工事をすべき高度の注意義務を負っている。
しかし、被告担当者は、ガス漏れ警報器の取付けなどの工事の際、ガス引火を現認しているのに、そのまま放置し、また、工事不良等によりガス漏れを発生させ、本件火災を引き起こしたのであるから、右ガス漏れが発生しないように工事をすべき注意義務を怠ったものである。
(被告の主張)
本件工事に注意義務違反がないことは前記(一)の被告の主張のとおりである。
3 原告が被った損害はいくらか。
(原告の主張)
(一) 本件本宅 三〇〇〇万〇〇〇〇円
(二) 本件風呂便所 八〇万〇〇〇〇円
(三) みかんの木 二〇〇万〇〇〇〇円
(四) 庭木 三二〇万〇〇〇〇円
(五) 家財道具等の動産類 六二三八万五〇〇〇円
(内訳は別紙明細書記載のとおり)
(六) 弁護士費用 三〇〇万〇〇〇〇円
(七) 合計 一億〇一三八万五〇〇〇円
(八) 請求額(右合計のうち) 二五〇〇万〇〇〇〇円
(被告の主張)
原告の右主張は争う。
第三争点に対する判断
一 争点1(火災の原因)について
1 証拠(甲八・九の各1、2、乙一、五、証人F)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(一) Fは、本件火災が発生した日の翌日の平成八年四月二一日の午前中に、有田消防組合担当者に対して、「夕食の支度をしようと台所のガスの元栓をあけ、瞬間湯沸器に火をつけ、鍋に湯をくみ、ガステーブルの右側のコンロに置き、つまみを回して、火をつけました。三分程たってから元栓の口付近の右側から火がつき、あっという間、床面に拡がりました。びっくりして大声で着替えをしていた主人を呼びました。主人は消火器で消火をしましたので、火の勢いは衰えて、消えたと思いましたが、台所の外のプロパンガスをおいて有る部分から大きな爆発する音がしました。爆発したと同時に一気に火が台所に入ってきて手がつけられなくなり、主人と一緒に避難しました。」と供述した。
(二) 原告は、同日、右担当者に対して、「着替えをしていると、台所から妻の声が聞こえたので、すぐに台所に行きました。コンロの下の方が燃えていたので、消火器で消そうとしましたが、一度は勢いが衰えましたが、外で爆発する音がして一気に中に火が入ってきて手がつけられなくなり、妻と避難しました。」と供述した。
(三) 本件建物の近隣に居住するGは、「本件火災当時、『ボーン』という音を聞くとともに、ガラス戸がビリビリ揺れるのを体感した。その後、本件建物から黒い煙が上がっているのを確認して、消防に通報した。通報後、再度本件建物を見て炎が出ているのを確認した」旨の供述をした(その録取書面が乙五)。
(四) 本件火災によって、台所南東側に設置してあったガスボンベは二本とも破裂したが、その安全弁は作動していなかった。
(五) 有田消防組合が台所付近の柱の炭化深度を測定した結果によれば、台所内部及び本件本宅南東部の焼損の程度が若干強い。
(六) 有田消防組合は、調査の結果、平成八年五月二二日、①台所の南東部分に火源となり得るような電気器具は見当たらず、発火原因が電気的なものによる可能性が薄い、②台所中央部に置かれていた丸形の石油ストーブについては、見分によってもストーブ自体からの発火は認められず、建物の焼き状況や焼きの方向からみて、右ストーブが出火原因とは考えにくい、③放火の可能性も薄いと判断した。
(七) 有田消防組合及び警察は、出火場所が本件建物台所南東部付近であると判断した。
2 右認定事実によれば、本件火災の出火場所は本件本宅の台所南東側であると認めるのが相当である。
そして、右(一)、(二)認定のとおり、原告及びFはそろって、本件火災が発生した日の翌日に、本件火災の発火場所が台所南東側にあったガスコンロないしはガス元栓付近であると述べているところ、右両名には格別虚偽を述べる理由は見当たらず、仮に虚偽を述べるとすれば、両名間で相当綿密な口裏合わせをしなければならないと思料されるが、右供述は本件火災の翌日午前になされており、そのような時間的余裕があったとは考え難いこと、本件火災の状況やGの供述記載(乙五)とも矛盾しないことなどからすれば、右両名の供述は、本件火災の状況を正確に述べたものと認めることができる。
この両名の供述に加えて、前記認定事実を併せれば、本件火災の原因としてプロパンガスのガス漏れ以外に考えられるものはなく、本件火災は、ガス漏れの詳細こそ不明であるが、漏れたガスに引火して起こったものと認められる。
3 被告は、原告及びFが前記のとおり供述するような引火状況は、およそガス火災としてはあり得ないと主張するが、発火状況は、ガスの吹き出した場所、その吹き出し状況、火元との位置関係等種々の要因によって異なりうると考えられるから、被告の右主張は採用し難い(なお、原告本人の供述及び証人Fの証言中には、どのように引火し、それが燃え拡がっていったかについて、前記供述と異なる部分があるが、右両名が本件火災のような緊急時に詳細な状況まで記憶していたかは疑問であるから、そのために前記供述が信用できないということはできず、少なくとも本件火災の発火場所が台所南東側にあったガスコンロないしはガス元栓付近であったとする部分に関しては十分信用することができるというべきである。)。その他被告が種々主張する点を考慮しても、前記認定を左右するに足りる証拠はない。
二 争点2について
1 争点2(一)(債務不履行責任)について
(一) 右引火と本件工事との関連性
原告は、本件工事の後本件火災までの間に、ガスの元栓コックを開閉したほかガスの配管やゴムホース等には触れていないと主張している。一般家庭においては、ガス器具やゴムホースの交換を行うなど特別な事情がない限り、ガスの配管やゴムホース等に触れることはないと考えられるところ、本件において原告又はFらがガスの配管やゴムホース等に触れなければならないような事情も認められない。加えて、証拠(証人F、同H、原告本人)によれば、原告及びFは、従前から、既に結婚して独立している息子のH(以下「H」という。)にゴムホースの交換を頼んでいたことが認められ、そうであればより一層、原告及びFがガスの配管やゴムホース等に触れたとは考えられないから、原告又はFの行動によってガス漏れが発生したとは考え難い。
他方、本件工事を行った証人D及び同Eは、本件工事の際に気密検査、燃焼テスト、遮断テスト等安全性を確認する各種検査を行ったと証言するが、検査終了後ガスの元栓にゴムホースをつないだのがどちらであるのか、その際にはきちんと接続を確認したのかなどについて明確な証言がなされていないのであって、右両名の証言によって、本件工事がガス漏れの可能性がない万全のものであったとは必ずしもいえない。
以上に加え、本件火災が本件工事のわずか五日後に起こったこと、その間他に何らかの人為的な要素が加わったとはうかがえないことを併せ考慮すれば、本件火災の原因となったガス漏れは、g株式会社の従業員の右D及びEが本件工事を行った際に何らかの不注意があり、それによって起こったと推認するのが相当である。
これに対して、被告は、本件工事から本件火災が起こるまでの五日間に何ら異常がなかったこと、その間の本件建物でのガス消費量は一般家庭と比べてもやや少ない量であることから、本件工事の際の不手際によってガス漏れが起こったとは考えられないと主張する。たしかに、本件工事直後からガス漏れが起こっていたとすれば、五日間という比較的短期間とはいえ本件火災より前に何らかの異常事態に至っていたとしても不思議ではないし、漏れていた分だけガスの消費量が多くなっていたはずであるということはできる。しかし、それらは、あくまでも本件工事直後からガス漏れが起こっていたことが前提となるところ、例えば、各種テスト終了後ゴムホースを元栓に差し込む際にしっかりと差し込んでおらず、しばらく日数が経過してから緩んだなど、本件工事終了後しばらくしてからガス漏れが生じるような可能性もあり得るから、被告の右主張は採用できない。
(二) 被告の債務不履行責任
以上によれば、本件工事は原告と被告との間のプロパンガス供給契約による被告の債務の履行としてなされたもので、本件工事をしたg株式会社は被告の履行補助者というべきであるところ、その従業員の不注意により本件火災が発生したのであるから、被告はこれにつき右契約上の債務不履行責任を負うというべきである。
2 争点2(二)ないし(四)について
原告は、被告には、本件火災の発生について、その他に、①土地工作物責任(争点2(二))、②製造物責任(争点2(三))、③使用者責任(争点2(四))があると主張する。しかしながら、右①については、土地工作物に瑕疵があったとの原告の主張を認めるに足りる的確な証拠はないし、右②についても、原告主張の製造物責任を認めるに足りる的確な証拠はないし、さらに右③についても、右認定事実によれば、D及びEは被告の下請けであるg株式会社の従業員として本件工事をしたものであるところ、注文者である被告に民法七一六条但書所定の過失があったことについて原告の主張立証はないこと及び右両名が本件工事を施工した際民法七一五条所定の原告の「業務の執行」についてなしたことについて原告の立証はないから、原告の右主張はいずれも採用することができない。
三 争点3(損害額)について
1 本件本宅及び本件風呂便所 合計一五五〇万〇〇〇〇円
証拠(甲一三、証人H)によれば、本件本宅は、昭和四四年一〇月に、材木費用約一五〇〇万円、建築費用約二五〇〇万円を費やして建築されたこと、本件風呂便所は、昭和四〇年ころ、原告所有の山林から切り出した材木を用い、建築費用約二〇〇万円を費やして建築されたことが認められる。
右認定事実を前提に、民事訴訟法二四八条の趣旨によって、経年による価格の下落その他一切の事情を考慮すると、本件火災が発生した日における本件本宅の時価は一五〇〇万円、本件風呂便所のそれは五〇万円、以上合計一五五〇万円と認めるのが相当である。よって、本件本宅及び本件風呂便所の焼損による損害は右時価合計相当の一五五〇万円であると認められる。
2 みかんの木 二〇〇万〇〇〇〇円
証拠(甲一三、証人H)及び弁論の全趣旨によれば、本件火災によって本件建物の周囲に植えられていた原告所有にかかるみかんの木四〇本が類焼したか又は枯れたこと、本件火災が発生した日におけるみかんの木一本当たりの時価は五万円と評価するのが相当であることが認められるから、みかんの木の損害は右時価合計相当の二〇〇万円であると認められる。
3 庭木 一五〇万〇〇〇〇円
証拠(甲一三、証人H)及び弁論の全趣旨によれば、本件火災によって本件本宅の周辺に植えられていた庭木が類焼したことが認められる。
右庭木の本件火災が発生した日における時価は、原告の主張額が三二〇万円であることを考慮し、民事訴訟法二四八条の趣旨によって、一五〇万円と認めるのが相当である。よって、庭木の焼損による損害は右時価相当の一五〇万円であると認められる。
4 家財道具等の動産類 一八〇〇万〇〇〇〇円
本件火災により、本件本宅内にあった家財道具等の動産類が焼損したことは十分に推認されるところであるが、その個別の品目、価格については必ずしも明らかではない。そこで、原告の主張額が六二三八万五〇〇〇円であること、原告の主張する別紙明細書記載の品目及び価格等を考慮し、民事訴訟法二四八条の趣旨によって、本件火災が発生した日における右動産類の時価は一八〇〇万円と認めるのが相当である。よって、右動産類の焼損による損害は右時価相当の一八〇〇万円であると認められる。
5 合計 三七〇〇万〇〇〇〇円
四 まとめ
1 損害の填補
原告は、前記のとおり、本件火災による損害額のうち建物更生共済から二〇〇〇万円の填補を受けたから、前記損害合計三七〇〇万円からこれを控除すると、一七〇〇万円となる。
2 弁護士費用
原告は、弁護士費用を前記債務不履行による損害と主張するが、これが前記債務不履行と相当因果関係にある損害と認めることはできないので、原告の右主張は採用し得ない。
3 小括
そうとすると、被告は、原告に対し、右一七〇〇万円とこれに対する訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな平成九年一月三一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるといわなければならない。
五 結論
以上によれば、原告の本件請求は、右認定の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 礒尾正 裁判官 間史恵 裁判官 田中幸大)
<以下省略>